『ネムルバカ』超考察~ラストの失踪、その後二人はどうなったのか~【ネタバレ含む】

雑記-考察

まさかの2025年になって実写映画化した、石黒正数先生の傑作短編漫画「ネムルバカ」。
原作ファンのみならず、多くの映画ファンの間でも大きな話題となっています。本作は、斬新なストーリーと個性豊かなキャラクターたちが織り成す世界観、特に「鯨井ルカ」「入巣柚実」という二人のキャラクターの複雑で尊い関係性が魅力。その背景や今後の展開について徹底的に考察していきたいと思います!

今回の筆者こつめくん:「以前から原作本のファンだったのですが、映画鑑賞を機にネムルバカへの想いが急激に盛り返してきたので、このタイミングで新しく供給された情報も交えながら、改めて本作の気になる点について考察をしてみます!」

『ネムルバカ』のあらすじ

地方都市の大学に通う女子大生「入巣柚実(いるすゆみ)」は、同じ大学の先輩であり、目標に向けて音楽活動を続けている「鯨井ルカ(くじらいるか)」と女子寮で相部屋。
入巣はこれといって打ち込むものがなく、何となく古本屋でバイトをする日々。一方で、ルカはカツカツの生活の中でインディーズバンド「ピートモス」のギター・ヴォーカルとして、自らの夢を追いかけています。
二人はなんとなく楽しみながらも変化のない日常をだらだらと過ごしていた。

そんなある日、ルカのもとに大手音楽レコード会社から連絡がきます。
その日を境に、2人の日常は大きく変化して…。

『ネムルバカ』のテーマ

  • 才能と劣等感
  • 自己肯定感とアイデンティティ
  • 若者の成長と選択
  • 先輩と入巣の「友達」や「親友」などの言葉にできない深く繋がれた関係性
実写映画ネムルバカ

考察①:ラストシーンのその後、先輩と入巣は再会できるのか?

これはずっと気になっていた点である。
またどこかでルカ先輩と入巣が再会して欲しい、これは私のかねてからの願いだ。だが、願いだけではなく私が二人の再会を確信するに至った根拠が幾つかあるので以下に挙げていく。

原作の構成について

まず、原作の各話のタイトルには小ネタが仕込んであり、実はしりとりで繋がるようになっています。

第一話「ネムルバカ

第二話「バカショウジキ

第三話「ジキュウセン

第四話「センチテ



そして最終話「ゲンキデ」が第一話の「ムルバカ」に繋がる。
それを踏まえて第一話冒頭に書かれた、入巣のモノローグ『かくして先輩は失踪を遂げる』を改めて読むと、これは単に第一話の先輩の家出のことを指しているのではなく、実は物語ラストに描かれた先輩の失踪のことを語っているという構成になっているのだ。

…と、ここまでは割と有名な話なのだが、今回、もっと大事なことに気付いてしまった。

それは、第一話の内容である。
第一話で先輩は田口の車の鍵を盗み、役に立たない萌えナビとともに車を走らせ、自分でもどこに居るのか分からない場所に辿り着いてしまう。これは自分の夢を抱き奮闘しながらも、先の見えない状況の中で迷走している感覚に陥っている「先輩の心境」を表現しているのだろう。そして車はガス欠、ついでに足も痛め、帰る手段を無くす始末。その場から動けこともできず、車の中でひとり泣く先輩。

それを助けに来たのは誰だったか?みなさん、思い出して欲しい。

そう、それは『入巣』だ。

入巣の能力について

入巣は先輩の家出先が分かった理由として、「テーブルの上に置いてあった小銭がヒントであり、寮からその金額で乗っていけるバス停がここだから」と推理している。

実際、これは入巣の思い込みだし、ギャグ寄りに描かれているのでサラっと読み流してしまいがちだが、よくよく考えるとこれは奇跡に近い。先輩ですら自分がどこにいるのかわかっていないのに、入巣にはわかるのだ。

他の部分はそれなりにリアリティーをもって描かれている第一話の中で、ここだけは違和感を感じる。

とすると、これは偶然とか奇跡というより、先輩を探し出せること自体が『入巣の特殊能力』として提示されているのではないだろうか。


最終話「ゲンキデネ」→第一話「ネムルバカ」に繋がっているということを先で述べたが、
もう一歩踏み込んで考えると、『最終話で失踪した先輩を入巣が探し出す』ということが第一話の内容で暗示されているのではないだろうか。(そしてこの説が真実であれば、改めて完成度の高さに感銘を受けるほかない)

最終話ラストシーンについて

最終話のラストシーンでは、就活中の入巣と、新しく相部屋となった後輩の様子が描かれている。
言うまでもないが、「寝ている先輩を起こす後輩」という構図は、第一話の先輩と入巣をなぞらえたもので、最終話では反対に入巣が先輩側になり、口にするセリフもそのままルカ先輩と同じことを喋っている。

後輩がルカ(ピートモス)のCDを見つけ、一緒に聴きましょうと誘うが、入巣はそれを断る。
何か事情があることを察した後輩は、「元カレとの思い出のCDとかでしたか?」と聞くが、入巣はそれに答えず、微笑んだ顔で物語は終わっている。

この入巣の表情についても改めて考えてみた。

悲しそうな顔というよりは、希望とか、前向きな感情があるように私には見えるし、恐らくそういった切ないエンドではないと思う。
(シンプルに「とても大切な思い出だから自分の胸の内だけにしまっておきたい」、という感情の可能性もあるが…。)

仮に悲しい感情があったとして、アホで裏表のない素直な入巣の性格からして、それを隠してあんな風に綺麗に笑えるだろうか?とも思うのだ。

最終話→第一話へ繋がるという話の中でも上述したが、入巣には、先輩とまた再会できるという確信があるのではないかという考察に至った。

もしくは、すでにこの時点で、こっそり先輩と会っているのかもしれない。
そう思う根拠は、入巣の言動が先輩と酷似してきていることだ。(ミラー効果)

ミラー効果とは?

心理学・コミュニケーションにミラー効果という言葉があります。
会話中に相手の身振り手振りや表情、言葉遣いを無意識に模倣する現象。これにより、相手との間に信頼感や親近感が生まれやすくなる。

この時点で入巣は、先輩と1年以上接触していないことになるが、1年以上実際に会っていない人の影響があんなにも現れるものだろうか?
ここまでのシンクロ率を見せるということは、この時点で実は入巣は先輩と再会を済ませていて、頻繁に会っている可能性もあるのではないだろうか。(※トンデモ論)

逃走中の先輩は世間でも有名人のはず。(売れていた歌手であり、ツアー途中で失踪した尋ね人)そのため、入巣との繋がりを知られる訳にはいかない。(どこから情報が漏れるかわからない)さらに、ピートモスのCDを聴かれるのも拒否(先輩をプロシンガーとして売り出すために隠蔽された過去がバレる可能性がある)し、後輩の問いに何も答えなかった、と考察できないか?

ちなみに劇場版ではエンドロールで、ひとりイヤフォンで先輩のCDを聴く入巣の姿が映されている。しかも表情に余裕がある。この顔はどこかで見たことがある…正妻の余裕の表情!!
(この演出は、もしかしたら原作2話の扉絵から着想を得ているのかもしれない)
※それにしても、なかなかの激重感情を感じました

新装版表紙について

絵柄が変わったこともあり、一瞬私は表紙の茶髪のキャラクターが誰だか分からなかった。(私だけだろうか…)
だが、一通り(映画も見て)本を読み終えると、やはり入巣だった。当たり前か…。

まず、入巣の肩からさげているスマホポーチショルダーは、連載当初には世に出ていなかったアイテムだ。
つまりこれは時間の経過を表していて、入巣の外見も変わっている(トレードマークであった髪型・髪色の変化)のも、数年後に二人が再会したイメージなのだと判断した。(判断は自由である)
※実写の二人に寄せた絵なのでは?とも一瞬思ったが、外見的にそういう訳でもなさそう。
背景には月が描かれていることから、きっと昔のように二人で飲んで楽しそうに帰宅する場面なのではないだろうか。

そしてもう一つ描かれているのは、楽器のシールドである。
シールド自体は前々からたまに背景に描かれていることがあったが、これを見てシールドだと瞬時に判断することはできないはずだ。なぜならシールドの先端は表紙上からは見切れており、表紙をめくるとそれがシールドであることが分かるような仕様になっている。
また、シールドは一般的には黒色のイメージが強いと思うが、あえて赤いシールドを描いているのは、やはり赤い糸」を意識しているのではと考察せざるを得ない。(と言い張る)(言い張るのは自由)

赤い糸だとする根拠はもう一つある。
このイラストにおいても、二人が共有しているイヤフォンの色は赤色なのだ。

劇中での二人の関係性を見て納得できるように、つまりこれは「先輩と入巣は赤い糸で結ばれている」という比喩なのではないだろうか。
だから、いったん別れても絶対また再会できる、ということだ。

会えない時間は二人にとっての『間奏』。また出会うことで曲が紡がれていくのだ。

ここまで言っておいてアレですが、新装版表紙絵については、単に石黒先生の絵柄の変化という可能性も捨てきれません!!!というか、新録書下ろしも読んだけど先生色々忘れちゃってない…!?

考察②:ラストのセルフテロは何のために・誰のために行ったのか?

そもそも論ではあるのだが、改めてここの部分を考えてみた。

先輩は、一切プロフィールを明かさない謎のアーティストとして、昔のアイドルくらい神秘性のある存在になって欲しいとプロデューサーから強く要望を受けていた。

これは、全力でバンドをやっていた先輩からすると、受け入れがたい話のはずだ。
そして聡明な先輩ならば、この話を受けて今後どうなるのかが分かったはず。

だが先輩はこの条件をのみ、そしてデビューした。
それから一年後、初ライブでのセルフテロ実行。
当然、この時点で先輩の人生は捨てたも同然だろう。もう音楽を生業にしていくことは出来ない可能性が高くなるからだ。それなのに、どうしてこんな愚行にも思えることをやってのけたのだろうか?

ここで、全く別の観点から考えてみた。

この動機に、入巣が絡んでいるとしたらどうだろう?

「何者でもない自分」
「誰にとってもモブで終わる人生」
入巣はそんなことを悩んでいた。

そんな入巣に、先輩は真摯な態度で「私はお前が大事だよ。」と伝えていたが、
それが入巣に正しく伝わっていたかどうかは、直接読み取ることができない。
(あえてそういう描き方をしているのではないかな、と思った)

この入巣の問題が解決された瞬間とはあのセルフテロだったのではないかと思うのだ。

先輩は、アンコールのあと「ネムルバカ」のクレジットとして、
「入巣柚実」の名前をはっきりと言い放っている。

名曲とされている「ネムルバカ」は、先輩一人では作れなかった。
入巣というピースがあって、そして先輩が居て初めて完成したのだ。

だから、入巣は何者でもないなんてことはないよ。私にとって、大事だよ。
そういうメッセージだったのではないかと推察できる。

先輩からのメッセージを受け取った入巣は、「先輩」と叫ぶ。
言いたいことが多すぎて、でも上手くまとまらなくて、この「先輩」という言葉にいったいどれほどの感情が込められているのだろうか。計り知れない。
その後、二人の心が通じたコマが描かれている。

そうなると、先輩のアーティスト名が「A」(劇場版だと「A。または人間、」)であったことにも、意味を帯びてくるのだ。※入巣が自分のことを皮肉交じりに一般人Aと比喩していたシーンがあった。
先輩はマーケティングの戦略通りに、謎の美少女Aとして売り出された。
このことは、実は入巣の抱えていた悩みとも通じていたのではないだろうか。

そして先輩自身もセルフテロを通じて、この「誰でもない存在」から「鯨井ルカ」を取り戻すことが出来たのではないだろうか。


そしてもう一つの気になる点。

このセルフテロはいつの時点で計画したのか?

入巣のセリフにも、「先輩はいつから計画していたのだろう、こんな意味のないセルフテロを…」というものがあるが、ここにも突っ込んでいきたい。

考えられる可能性としては、
①デビューからコンサートまでの間
②デビューする前

のどちらかだ。

とはいっても、ここはもう想像するよりほかないのだが…詳しく見ていこう。

①であった場合

『先輩は一度は(本当に自分がやりたい方向性ではないが)自分の夢を叶えるためにデビューを承諾したが、
実際に傀儡人形となってみて「やっぱり無理、やめよう」という心境の変化があった』ということになる。

普通に読めばこちらの可能性が高いと思うのだが、先輩というキャラクターを考えたときに、
それはいささか浅はか過ぎる行動ではないだろうか?という違和感が残るのだ。

②であった場合

具体的なタイミングとしてはいつなのか?を考えたときに、思い当たるのは「思ったより柔らかいんだ」のシーン時点しかないだろう。

この時点で計画していたということになると、入巣を抱きしめたときのルカ先輩の表情が意味するのは、
『この計画を遂行するという決意』という風に解釈することが出来るかも
しれない。

ただ、こんなことをすれば先輩の人生は確実により険しい道となるので、入巣のためだけに何もかも投げうるというのは相当の激重感情があったということになってしまうだろう…。

ここは作者に真相をぜひ明かしてもらいたいところである。

考察③:ネムルバカ、先輩と入巣の関係性

先輩の性格について

先輩は、一見すると芯を持って夢のために邁進する強い人間のように見える。
先輩の辛辣な言葉を指針に生きて来たという入巣の言葉からも分かる通り、自分にストイックだし、他人にも物怖じせず本質を突いた言葉を投げる。

だが、入巣がそのことをボヤくと先輩はこう言う。

「あれは…自分に言ってたんだ
「そりゃ…私だってずっとここでフワフワと暮らしてたいよ。…でもそれじゃダメだ……」
「どっかに風穴あけなきゃ閉じっぱなしなん…」

きっと先輩も、自分という人間が、入巣が思っているほど遠い存在ではないと思っている。

入巣と過ごすフワフワして楽しい日常をずっと続けたいと願う気持ちと、それでは前へ進めないという気持ちの狭間で葛藤していた。
現に、音楽プロデューサーから契約の話を持ち掛けられたあの日、先輩の精神状態は極めて不安定になっていた。

また、番外編「春香と父さん」で描かれていた先輩の姿は、およそ入巣の前で見せるクールで達観した先輩ではなく、内弁慶で人見知りの、末っ子気質の子だった。
そのギャップに驚いた読者も多かったであろう。
先輩の本来の性格は「春香と父さん」で描かれた先輩であり、決して強い精神の持ち主ではないことが分かるのだ。

※余談ではあるが、これは同作者の作品「それでも町は廻っている」の紺双葉(紺先輩)というキャラクターにおいて更に顕著な傾向にある。
ルカとほぼ同じ属性・外見を持つ紺先輩は、人を寄せ付けない・クールで強そうな性格に見えるが、それは弱い自分をカモフラージュするための戦術で、実は精神的に脆く、(入巣役である)主人公の歩鳥に依存しているという構図がより分かりやすく描かれている。

ネムルバカの歌詞から読み解く先輩の想い

第一話、入巣が先輩を迎えにいったシーンでこんな会話がある。

「そんなことより なぜここにいると分かった?」
「探しに来て欲しかったんでしょ?ヒントが分かりやすすぎ…ですよ」
「あ?自分でもどこにいるのか分かんねーのに」

一見、すれ違っている二人の会話のようだが、実はこのセリフのやり取りは核心だったのではないかと改めて思う。

つまり先輩は、本当は入巣に(迷子になっている)自分を探しに来て欲しかった
(だが、入巣の前では弱音は吐けない。強い先輩でいたい。)

映画化にあたり、作者の石黒正数氏が作詞したネムルバカの歌詞の全貌が明らかになったが、
そんな強がる先輩の気持ちは、歌詞の中でも表れている。

※ネムルバカより一部抜粋

魔物、 化け物、 ヒーロー、 悪党
僕は何でもないまま
あんまり時間もないみたいだから
寝顔に聞いているんだよ

感覚が鈍ったままで
僕の指が触れる
柔らかくて純粋な
もの……

ネムルバカ
ボクはまだ大丈夫?
答えづらいだろうから 今聞いてるんだよ

もし僕が食べようとした
まんじゅうに毒があったら
お前が教えてくれ

頼むぞおい! ネムルバカ

答えてくれ…
答えてくれ…

先輩が本音を打ち明けているのは、相手(入巣)が寝ている時であり、相手が起きているときには決して伝えていないことが分かる。
※先輩の引っ越し前夜のときも、入巣が寝ているときに先輩が本音を漏らしていますね。

守るポジションのキャラの方が実は精神的に弱くて、世話を焼かれている/守られているポジションの相手の方が実は精神強くて、相手を支えてる…ってのは結構あるあるですよね。

また、入巣の特殊能力のことを考えると、最終話での失踪のときも、
先輩は「いつかみたいに、入巣に自分を探して欲しい・追いかけて来て欲しい」と思っているかもしれない。
先輩は最後まで入巣に弱いところを見せずに去ったし、デビューしてからも連絡は取っていなかっただろう。

先輩の方から入巣のところへは行けないのだ。
先輩を探し出すのは、入巣の役目なのだから。

これが私が考える二人の尊い関係性です!!
是非、みなさんもご自身の目で原作、そして実写映画を確認してみてください。
そして二人の関係について新たな気づきがあったなら教えてください!!

以上、こつめくんでした。

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